ヒョウモンガメの大ちゃんのお話です。
今から二ヶ月以上前の8月28日、朝起きて庭に出るとナミビアヒョウモンガメのミツオ君が日光浴をしていたのですが、なんと甲羅に大量の血が!?
驚いた私は獣にでも襲われたのかと傷口を探したのですが、当亀は「へ?」と不思議そうにしています。
よくよく調べてみると出血は大ちゃんの鼻周辺からのもので、ミツオ君の甲羅を枕としていた為に付着したことがわかりました。
大ちゃんは相当な出血量だったらしく、地面のあちこちにも血が垂れていたのですが、不思議と体調が悪そうには見えません。
とりあえず血だらけの顔を洗い流して餌を出してみると、いつも通りの勢いで食べ始めました。
本来は直ぐに病院へ連れて行くべき事態だったのですが、その日はどうしても外せない仕事が入っており、診察は翌朝になってしまいました。
一日経った大ちゃんは出血が止まっている上にケロッとしているので、病院に来たものの重病感が全くありません。
念のためと血液検査をして頂いたのですが、異常は見当たりませんでした。
先生にも健康な亀にしか見えないようで、「元気そうだし食欲もあるので様子をみましょう」とのことで診察は終わりました。
私自身、この時点では出血箇所が特定出来ていなかった為、おおかた固いものでも拾い食いして口の中を切ったのだろうと考えていました。
ただ、それであれば食べる際に痛みが伴うはずなので、食欲に変化がないことに違和感はあったのですが。
それからしばらくは平和な日が続き、やはり口の中を切っただけかと安心しはじめていたのですが、十日ほど経った9月7日の夜、また大ちゃんの鼻から多量の出血が・・・。
しかも、この時は前日までの様子からは考えられない衰弱ぶりで、朝までもたないのではと思えるほどでした。
とにかく室内に取り込んで夜明けを待ち、病院が開くと同時に駆け込んだのですが、既に出血は止まっており、なぜか前夜の様子が嘘のようにイキイキとしています。
いちおう肺炎や抱卵も疑ってレントゲンを撮って頂いたのですが、今回も異常は見つかりませんでした。
血液検査やレントゲンにて異常がないのは喜ぶべきことなのですが、決して正常とは言えない大ちゃんの姿を見ているだけに、モヤモヤは募るばかりです。
先生いわく、亀の病気で鼻血という症状のものは無いらしく、どうにも腑に落ちないままに抗生物質とステロイドを処方してもらって帰宅しました。
心配だった私は別の病院でも大ちゃんの症状について相談したのですが、やはり鼻血が出るという疾患は思い当たるものがないそうです。
あくまでも仮説ですが、鼻の中にデキモノが発症し、そこから菌が入り込んだことで頭の中に腫瘍ができているのではないかとのこと。
ただ、もしそうだったとしても場所的に手術は出来ないようですが。
それからは大ちゃんを室内飼育に変更したのですが、出血の頻度が上がるに連れて食欲が落ちていき、とうとう常に鼻から血を出しているようになってしまいました。
9月30日の診察では血管を収縮させて出血を止める薬を処方されたのですが、それでも大ちゃんは鼻血を出し続け、亀部屋の壁や床に付着した血を拭いて回るのが日課となりました。
最後に病院へ行ったのは10月6日ですが、もはや手の打ちようがないらしく、この日は輸液注射のみで連れて帰ってきました。
今でも明確な病名は分かりませんが、鼻血が止まらないという症状を人間で調べてみるとガンや白血病が当てはまるようですので、そういうことなのかもしれません。
その後、大ちゃんは全く食べなくなって久しく、オシッコをしたら温浴をして水を飲ませるだけの日々となりました。
ずいぶんと軽くなってしまいましたが、それでも夜明けと共に歩き周り、夜は小屋に戻って眠る日々を続けています。
私が亀部屋で作業をしていると決まって甲羅を擦り付けてくるのですが、「おー大ちゃん、どーしたどーしたー?」なんてトボけた対応しかしてやれず、飼い主としてこれで良いのかとの疑問を頭の中で繰り返しました。
カメには「死」という概念が存在せず、それに伴う「恐れ」や「悲しみ」といった感情もないのでしょうから、可哀想という表現は人間本位のものに過ぎないのかもしれません。
そもそも、生き物の死に対する捉え方は様々でしょうし、私自身も変に感情的にはなりたくないとの思いがあります。
でも、大ちゃんとの別れが近づいている事実を受け入れようとする度に泣いちゃうんですよね。。。
大ちゃんは2007年産なので、ちょうど10歳です。
今回の事態が起こるまでは全くの病気知らずで、死んでしまう未来など想像できないほど元気に、そして順調に育ってくれました。
むしろ、飼い主である我々の老後にどうするべきかを本気で心配しているくらいでしたので・・・。
ただ、今年は初夏から「どこか変だな」とは思っていました。
元気も食欲もあるものの、飼い主だけが気付く「何か」は、ぶーこさんも感じ取っていたようで、二人の間で度々話題になっていたのです。
10月下旬になり、大ちゃんの痩せ細った姿に「強制給餌」を考えるようになりました。
このままでは絶対に助からないと分かっている反面、食べようとしない大ちゃんの胃の中へ無理に流し込む行為は死に直結する恐れもあります。
しかし、拒食の原因は違うものの、強制給餌によって今までに何匹もの亀を立ち上げられたという経験から、もしかしたら大ちゃんも元気を取り戻し、そのうちに自力で食べ始める日が来るかもしれないとの結論に至りました。
というか、私に出来ることはもうそれしか残されておらず、飼い主としてなんとか一矢報いたいとの思いだったのです。
さんざん躊躇った挙句、11月2日の夜に初の強制給餌を行いました。
粉々にすり潰した配合飼料を経口補水液に溶かし、チューブを介して胃の中へ流し込みます。
大ちゃんが弱っていたこともあり、思いのほかスムースに作業ができました。
不安はもちろんですが、ひと月以上も食べていなかった体に栄養を補給したという清々しさもあり、これで悪影響が出なければ定期的に続けようと思いました。
その夜は心配で何度か見に行ったのですが、スースーと眠っている姿に回復の可能性を感じました。
また、落ち込んでばかりの毎日を覆せたかのような安堵感もあり、ぶーこさんと少しだけ喜んだりもしました。
しかし、希望を持てたのも束の間、大ちゃんは明け方に息絶えてしまったのです。
大ちゃんは私の亀飼育を語る上で欠かせない存在ですし、飼育した年月やその大きな体から、我々夫婦にとって最も親近感のあるカメでした。
正直、まだ死んでしまったという実感はないのですが、日常を繰り返すなかでジワジワと伝わってくるのだと思います。